「後期高齢者医療制度」について

参議院で、福田内閣問責決議が可決されたのを覚えていますか。理由は、「後期高齢者医療制度に反対して」でした。でも多くの国民は、この制度の複雑さも手伝って、何が問題なのか理解しにくかったのではないでしょうか。現在も反対者が多いこの制度を、解説・検討します。

 「後期高齢者医療制度」は、次のような点が特徴と言えます。

その1 75歳以上を「後期高齢者」として、他の年齢の人々の医療保険と分ける。同時に、けがなどで仕事を休んだときの「傷病手当て」の支給が行われない、メタボ検診や人間ドックへの補助金が支給されないなどの差別が発生する。 その2 市町村に代わって、都道府県単位の「広域連合」が事務処理を行う。同一都道府県内の保険料などの格差はなくなりますが、都道府県間の格差は拡大する可能性が大きいです。 その3 後期高齢者個人単位で保険料を負担する(年金から天引きされる。)たとえば自営業を営んでいたおやじさんがご隠居となり、息子さんが世帯主となった場合、息子さんが家族全員の保険料を負担しているにもかかわらず、ご隠居さんの年金からも別に保険料が天引きされる。

 その他にも問題点は多々あるのですが、最も批判の多かったのは「75歳で線引き」と「年金から天引き」という点だったと思います。そして最も根本的な問題は、「なぜ75歳で個人差も考慮なしで線引きするの?」ということだと思います。増大する医療費を抑制することが最大の目的であるこの制度で、75歳以上は医療費がかさみやすい年代ということなのでしょう。でも、75歳でも80歳でも元気な人もたくさんいます。ちなみに75歳以上でも現役なみ所得のある人は、現役なみの窓口負担を行いますが、それでも選択の余地なく後期高齢者医療制度に入れられてしまいます。

社会保険審議会が発表した「後期高齢者の心身の特徴」は次のとおりでした。

  1. 老化に伴う生理的機能の低下により、治療の長期化、複数疾患への罹患が多い。
  2. 多くの高齢者に、症状の軽重は別として認知症の問題が見られる。
  3. 後期高齢者はこの制度の中で、いずれ避けられない死をむかえる。

 今、日本人の平均寿命は、男性約79歳女性約86歳です。ほとんどの国民がいずれ75歳になるというのに、「75歳以上はほとんどが認知症」なんて言われると多くのお年寄りはかえって老けこんでしまわれるのでは…。いずれ死をむかえるのは高齢者の問題ではなく人間共通の事実なのでは…。なんだかこの制度って「杓子定規な役所仕事」の典型としか言いようがありません。日本が世界一の長寿大国であることは、日本のGDPが世界有数であること以上に誇らしいことと思いませんか。なのに、高齢者が「たくさん病気を持ち、認知症で、死にゆく存在」としか言われないのでは、世界の憧れとはなりえませんね。もっと明るい個性的な高齢者像を持つ長寿大国でありたいと思います。